ならずものがやってくる

多分、この作家の一番キャッチーな紹介方法はこれでしょう。「スティーブ・ジョブスの元カノ」。スティーブ・ジョブスといえば、ダニー・ボイル監督の「スティーブ・ジョブス」を出張帰りの飛行機の中で観て、あまりの嫌なヤツぶりに気持ちが悪くなったという事件が個人的には記憶に新しいのですが、二人が付き合っていたのはイーガンが超名門ペンシルヴァニア大学の学生だった頃。なんと発売したばかりのマッキントッシュをジョブスが直々にデリバリー&セットアップしたそう。ちなみにご本人はジョディー・フォスターとシガニー・ウィーバーを足して二で割ったような美人。(と書いて、自分の年齢を感じます。)

本書、『ならずものがやって来る』はピューリッツァー受賞作品。ゆるく繋がっているたくさんの登場人物が時間を前後しながら一つの立体的な物語を形成するポリフォニックな作り、と書くと、ああよくあるポストモダン的なヤツか、と思われるかもしれないのですが違うのです。何かがとても新しい。いや、むしろ懐かしい。恐らくそう感じさせる理由は、イーガンがものすごくトラディッショナルな方法で小説を書く作家で、複雑な構造もギミックではなくこの主題を表現するための必然的なチョイスだからな気がします。学術論文風、二人称小説、アメリカーナな青春物など、章ごとにガラリと異なる文体を完璧に書き分けるという、思わずクラクラするほどの圧倒的な才能を見せつけるのですが、中にはなんとパワーポイントで書かれた章まで存在していて、もうその泣けることと言ったら……。パワーポイントですよ、パワーポイント。

タイトルの「ならずもの」とは時のこと。あんなにキラキラと輝いていた人を単なる老いぼれしにしてしまう、時というものの残酷さも描かれていますが、同時に若い時分は時分でみじめで苦しかったよね、なんてことにも気づくはず。そして時が解決してくれることもたくさんあるし、時が流れているからこそ、人はいつだって新しく始めることができる。最近、時間が経つのが早いなあとか、時間が戻ればいいのになあ、などと感じる方、是非ともこの本を読んで、時との関係を自分なりに考えてみるのはいかがでしょうか? ちなみに、この本を読んでから夕日を見るとウッと胸が詰まって泣きそうになります。

間違いなく今世紀を代表する偉大な作家、ジェニファー・イーガン。要チェックです。あ、あと、多分90年代にインディ・ロックとか好きだった方も是非。そうじゃなくても、読まないと損レベルに面白いです。ああ、お願い、みんな読んで。

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