Fire and Ice

by Robert Frost

Some say the world will end in fire,

Some say in ice.

From what I've tasted of desire

I hold with those who favor fire.

But if it had to perish twice,

I think I know enough of hate

To say that for destruction ice

Is also great

And would suffice.


やんわりと暖かくなってきたタイミングでこの本です。数ページを読んだだけで、本書の読者は、氷に覆われていく終末の世界に閉じ込められてしまいます。氷や、雹や、雪の情景描写ではなく、不穏でサディスティックな主人公の心までが、畳み掛けるように凍てつく寒さを強調していくのですが、その文章がひどく美しい。

この世のものとは思えない白い花が生垣の上に咲き競いはじめた。生け垣が途切れたところで、その奥が垣間見えた。ヘッドライトが瞬時、探照灯のように少女の裸体を浮かび上がらせる。雪の純白を背にした、子供のように華奢なアイボリーホワイトの身体、ガラスの繊維のようにきらめく髪。少女は私のほうを見ていない。(途中省略)下方では、早くも少女のもとに達した氷の最外縁がコンクリートのように足と踝を固定して、彼女を動かなくさせている。私は、その氷が少しずつ少女の脚を這い昇り、膝から腿を覆っていくのを見つめ、少女の口が開かれて白い顔にうがたれた黒い穴となるのを見つめ、かぼそい苦悶の叫びが発せられるのを聞く。哀れみは一切感じない。それどころか、苦悶する少女を見ていることで、説明しようのない歓びを感じている。

簡単にプロットを説明するとしたら、主人公は昔、懇意にしていたにも関わらず、金持ちの男と結婚してしまった銀色の髪を持つアルビノの『少女』に会いに行くのですが、久々の再会を果たした後に、『少女』は突然、夫の元から去ってしまう。どこかの国に船で渡った『少女』が『長官』と呼ばれる権力者の囲われの身となったことを知った主人公は、どうにか彼女を奪還しようとするのだが、命を懸けてまでの努力も空しく、あっさりと一緒に逃げ出すことを拒否されてしまう。しかしながら、主人公は諦めず、ストーカーばりの、というかストーカーそのものの追走劇が繰り広げられる。

普通の小説ならば、どうして『少女』は『長官』と出会ったかや、『少女』はなぜ頑なに主人公を拒否するのかや、そもそもなぜ主人公は『少女』を追いかけるのか、などが当然のこととして説明されるはずだ。しかし『氷』の世界では、時の糸だけで繋がれた脈絡のない出来事たちが起こり、幻想なのか、フラッシュバックなのか、隠喩なのか分からないような文章がまたもや何の説明もなく挿入され、登場人物はそれを必然として受け入れている。これって考えてみると夢と同じ構造。起きてから考えると支離滅裂なのに、夢の中では普通に納得している、みたいな。で、これを書いていて気が付いたのだけど、『氷』というのは限りなく夢に近い文脈で書かれた現実世界の小説だというのがすごくて、それに輪を掛けてすごいのが、読んでいて面白いということ。だって、ほら、人の夢の話を聞くほどつまらないこともないじゃないですか。

特筆すべきは『少女』のキャラ。二十一歳、既婚、にも関わらず彼女のことを『少女』と呼ぶ主人公の不気味さはさておき、文学史上NO. 1 ツンデレガール、とでも呼びたいような独特の魅力を持った登場人物なのです。幼少の頃から精神的に虐待されていたため、いつも怯えていて、何をしてももどかしい、というかほとんどイラつくぐらいの被害者感半端ない行動を取るのですが、主人公に対してはとにかく残酷な言動にでるのです。なんかヴィジュアル的に、日本のアニメのキャラにしてもいいかもしれない。最後こう来るか、どひゃー、というオチもあるので是非読んでください。って、この主人公の一人称、まったく信用できないけどね。『少女』=作者のアンナ・カヴァンが長年苦しめられたコカインのメタファーだというのはよくされている解釈で、そう読み解くのも面白いのだけど、身も凍るような誰かの悪夢的に閉じ込められるのが、読書狂としてはただただ楽しいのです。はい、読みましょう。



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