忘れられた巨人

カズオ・イシグロの十年ぶりの新作はなんとファンタジー!ということで注目の本書は、記憶と歴史と愛と憎しみの話。まさにタイムリーな話題を主題にしているのは、さすがカズオといったところ(馴れ馴れしい)。記憶がなかったら、愛もないけど憎しみもないよね、っていう話なのだけど、現代を舞台にした物語でこれを問題定義したらあまりにも単純だし説教臭くなるだけだから、やっぱりファンタジー設定は正解なのだと思う。ル・グウィンのような王道な冒険あり、ロード・オブ・ザ・リング(映画版!)みたいなアクションあり、司馬遼太郎みたいなチャンバラシーンもあり、もうすぐ映画化されるんだろうなというエンターテイメント満載な展開はもちろんグイグイ読まされて面白いんだけど、やはり白眉なのは主人公である老人カップルの深い絆の描き方。何が起こったからというわけではなく、長い時が培った愛情は本当に美しくありながら、同時に何かひどく物悲しいのです。きっとそれは二人の関係が単なる運命ではなく、惰性と妥協と諦めの結果でもあるから。でも、愛を持続させるのはそんなひたむきな努力しかないわけで、それこそが愛だというメッセージなのではないでしょうか?最後のシーンは本当に色々な解釈の仕方があって、余韻の残る素晴らしいエンディングでまさにカズオならでは。シンボリックに霧が薄れながらも、何も明確にされないエンディングなのだけど、思い出すと恐くてしょうがない。

トレンドをとりあえず抑えたい方と、カズオ好きは読んで間違いない一冊!が、やっぱり『わたしを離さないで』を読んでいない人は必ずそっちの方から読みましょう。にしても、土屋政雄さんの訳って本当に素晴らしい。


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PR・翻訳家・読書狂、今泉渚の妄想書店です。個性的な仲間たちとゆるくブックレビューを書いています。

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