ずっとお城で暮らしてる

少女の無垢さが、不気味だったりグロテスクだったり邪悪だったりする何かと融合して、渾然一体になっている小説なり映画なりが大好きだ。例を挙げるなら、ピーター・ウィアー監督の『ピクニックat ハンギングロック』、ヤロミール・イレシュ監督の『ヴァレリエの不思議な一週間』(これにはすごい邦題が付いていて:闇のバイブル 聖少女の詩)、テリー・ギリアム監督の『タイドランド』、『サスぺリア』はそのまますぎるかもしれないけれどでも好きで、最近ぐぐっと来たのはカルロス・ベルムト監督の『マジック・ガール』。『マジック・ガール』については、『本のPR』 がその名の通り本についてのブログだということを無視しても熱く書きたいぐらいグッと来たのだけど(ちゃんと江戸川乱歩と絡めてね)、それは置いておいて、みんな大好きシャーリイ・ジャクスンの『ずっとお城で暮らしてる』について書きます。

あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。十八歳。姉さんのコンスタンスと暮らしている。運さえよければオオカミ女に生まれていたかもしれない。何度も考えたことがある。なぜってどちらの手を見ても、中指と薬指が同じ長さをしているんだもの。だけどそのままの自分で満足してなくちゃいけなかった。きらいなのは身体を洗うことと、イヌと、うるさい音。好きなのはコンスタンス姉さんと、リチャード・プランタジネット(*注 十五世紀イングランド王族)と、アマニタ・ファロイデス―――タマゴテングタケ(*注 猛毒のあるキノコ)。ほかの家族はみんな死んでしまった。

お城のような屋敷に住むのは、通称メリキャットと呼ばれるメアリ・キャサリン・ブラックウッド、その姉で金髪碧眼の美しいコンスタンス、そして二人の叔父であるジュリアン・ブラックウッド。ほかの家族は、屋敷での食事中、デザートのブラックベリーにかけた砂糖のせいで殺されていた。そう何者かが毒を混入したのだ。事件の当時、メリキャットはお仕置きで部屋に閉じ込められていたため、容疑は食事を用意したコンスタンスへ。証拠不十分で投獄は免れたものの、彼女たちを取り巻く環境はがらりと変化。村人は残忍な大量殺人の容疑者であるコンスタンスを憎悪し、彼女は否応なくも屋敷に閉じ込められることとなり、週に二回、やむなく町へ食料の買い物に行くメリキャットもひどい嫌がらせや罵詈雑言に曝されるのだ。

というのが、ざっくりとしたあらすじ。文学的なカテゴリーに言及することすら若干ネタバレになりそうなぐらい、内容に触れずにこの本の面白さを紹介するのは難しいのだけど、まあ一言でいうと嫌な話です。読後に色々な想像が浮かんで来て、「あれ、もしかして、これってああいうことだったの?」的なことがふと頭に過っては、嫌な気分になれるという楽しみ方ができてしまう素晴らしい本。で、ここでまた『マジック・ガール』に戻るのだけど、登場人物の一人がある部屋に入っていくシーンがあって、その部屋でどうしようもなく邪悪で残酷なことが起こったのは分かるのだけど、実際に何が起こったことは完全にカットされていて映像的な説明は全くされないのです。一体、あの部屋で何が起こったのか? 自分の想像力の度合いによって恐ろしさが変わってくる。そして自分の想像力がそもそも恐ろしくなってくる。善良なはずの自分なのに、こんなにも暗くサディスティックなことを想像してしまっているから。暗く果てしのない深淵が存在しているから。

『ずっとお城で暮らしてる』で何が起こったのか、どうぞ実際に読んで確かめてみて下さい。物語としても純粋に面白いし、またお菓子と植物と毒が入り混じった世界観も(世界観って言葉、安易で嫌いなんだがまあいいか)とても魅力的です。ちなみに、シャーリイ・ジャクスンは『くじ』という短編小説を書いていて、小さな町で年に一度、くじを引いて当たった人を投石で殺すというチャーミングな話なのですが、それがトラウマ級に嫌な気持ちになるのでご興味がある人はそちらも是非!


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PR・翻訳家・読書狂、今泉渚の妄想書店です。個性的な仲間たちとゆるくブックレビューを書いています。

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