カメレオンのための音楽

天才的な才能を持ち、セレブや上流階級に囲まれ、地位も名誉も欲しいままにしていたにも関わらず、アルコールと薬物に溺れ、孤独の中で死んでいったカポーティ。華やかで美しく軽薄な世界を愛しながらも、そこに心から属することができなかった、そんな疎外感こそがカポーティの小説を特徴づけていると言っても間違いはないはず。この短編集に収められた宝石のように磨き上げられた物語はどれも美しく、ゴシップ記事のように興味をそそり、そして胸が締め付けられるほど物悲しい。例えば、マリリン・モンローと過ごした午後を描いた『美しい子供』は、彼女の死を知ったカポーティが、トレビュートとして書いた作品。稀代のセックスシンボルをあんなにイノセントに軽薄に描けるのはカポーティならでは。ケラケラと笑いながらダンスをしているような、それでも足元にはぽっかりと底も見えないような深淵が口を開けているような、そんなマリリン・モンローの投げやりな危なっかしさと物悲しさは、どんな映画や写真やドキュメンタリーよりも彼女のことを正確に伝えているような気がする。『モハーベ砂漠』は退廃的な生活を送る上流階級の女性の物語なのだけど、メロドラマ的なエピソードの連続の中に、生の不安や拠り所のない悲しみを描いている。淡々とした筆致でありながら、まるで一人砂漠に取り残されたような孤独や絶望を感じてしまう。『木彫りの棺』はある連続殺人を追う刑事の執着を描いた作品で、まるでミステリーを読んでいるよう。狂気と正気のボーダーラインがだんだんと曖昧になり、読後にはどこにも行かない恐怖が残る。こんなにクオリティーの高い作品が一つになった短編集は本当に数えるほどしかないはず。しかも、なんと日本語版は野坂昭如が訳しているという!外国人だったら日本語を勉強してでも読むべき奇跡の本になっているのです。

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