いちばんここに似合う人
おしゃれで、才能があって、しかも旦那さんがマイク・ミルズという人類最強女子、ミランダ・ジュライ。そんなすべてを持っているのにも関わらず同性に好かれるのは、コンベンショナルな美人じゃないからだと思う。なんだろう、圧倒的な男ウケはしなさそうな、好きな人がかちあっても大丈夫そうな、理想の女友達感。色々なスペックを比較して戦ったら絶対に勝ち目がないのに、相手にそう思わせないのってすごい才能ですよねっていうか、多分ミランダ(ファーストネームで呼びたくなる)は戦ってないんだと思う。女性同士、男の子の目とか意識して敵対しあうのってもう古くない?みたいな。ゆるくクールに行きましょうよ、クールに、的な。
16編のショートストーリーに出てくる主人公の多くは孤独でコンプレックスがあって妄想ばかりしているタイプ。(本好きの女性の97%はこのカテゴリーに入るのでは。私も含めてです。)思い通りに行かない現実にどうにか対応しようとする姿は読みながら爆笑してしまうほどブラック・ユーモアたっぷりに描かれているのだけど、同時にヒリヒリするぐらい切なくてリアルでもあるのです。その匙加減が非常に絶妙。自分が言った気の利いたセリフでその場にいた全員が笑う(もちろんお目当てのあの人も)ことを想像したりとか。それでいて、そのセリフ自体は思いつかなかったりとか。そう、あるある。
一番好きなのは、『動き』。残せる財産がないからと、お父さんが秘伝の技を娘に伝える話なのだけど、その秘伝の技というのがなんと指で女性をイカせる方法。ひどく気まずい気持ちになりそうな状況だけど、教える方も教えられる方もひどくピュアでエロさがないのです。そんなことをレズでもない娘に教えてどうすんだという滑稽さと、何かを遺してやりたいという父親の愛情がなんとも美しい物語を織りなしているのです。ものすごくシンプルな構成なのだけど、きちんとエピファニーがあったり。
本当に勝手なことを言っているけど、なんだろう、「私、おしゃれも好きだけど本も読みます」みたいな人も(ELLE JAPON とか GINZA とか読んでそうな)、「口に出して主張するのはダサいから言わないけど、やっぱ本読んでる女の方が世のキラキラ系女子よりもおしゃれじゃない?」みたいな人も(若干服装ダサい)、「映画はやっぱりミニシアター系ですよね」みたいな人も(森ガール。古い?)、なんだか一様に楽しめる本ってなかなかなくて、それがミランダの本なんじゃないかなと。これ読んでる自分が好き、って気持ちにもさせてくれます。それに本棚にあったらおしゃれだよね、黄色い表紙!とにかく、「この本大好きなんです」って言ってしまうのが憚れるほどオシャレで(しつこい)、心に深く残る、素晴らしい短編集なのです。ちなみに、新作FIRST BAD MAN もぶっ飛んでて最高でした。なんと妄想レズビアン子育て小説という。ミランダ、クール過ぎるよ、もう。
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