日日是好日「お茶」が教えてくれた15のしあわせ
「お茶って、なにが面白いの?」よく言われます。そのたびに詰まってしまう。茶
道をはじめて約8年、初心者でなく中級レベルなのに全然できない。お点前の手順
は忘れるし、紐の結び方とか覚えづらいし、季節によってお道具が変わったり袱紗
捌きが変わったりしていつもパニック。ある意味、すぐにわからなくて出来ないか
らこそ、長く続けているんだと思う。
読むまでは、漠然と「茶道」とか「お茶」について書かれた本なんだと思っていた。
読了した今(すでに数回読んでる)、はっきり言えるのは「お茶」の本であって「お
茶」の本でないということ。茶道のお点前の手順とか心構えとか、そんな内容じゃ
ない。「お茶」をやった方がいい、だなんて一言も書いてない。あくまでも著者の
約25年続けているお茶のお稽古を通して気づいた心の成長記録。上手くいかない就
職、婚約していた恋人との別れ、家族の死…人生のさまざまな出来事の中で、どん
な時でも淡々と毎週土曜日、お茶のお稽古は行われる。最初は訳がわからなかった
所作や掛け軸、茶花などの意味がどんどんわかるようになっていく。ひとりの女性
のお茶を通した精神的な成長の軌跡が大変読みやすいリズミカルな文章で綴られて
います。
全部で15章、それぞれにテーマがあります。以下、抜粋。
・頭で考えようとしないこと(第2章)/「今」に気持ちを集中すること(第3章)
・季節を味わうこと(第6章) / このままで良い、ということ(第10章)
・「自分の内側に耳をすますこと(第12章)」
どうですか?人によって人生のステージはそれぞれだけど、きっとどれか心の琴線
に触れるものがあるはず。ちなみに、わたしは「雨の日は、雨を聴くこと(第十三
章)」が一番グッときた。
雨の日は、雨を聴きなさい。心も体も、ここにいなさい。あなたの五感を使って、今を一心に味わいなさい。そうすればわかるはずだ。自由になる道は、いつでも今ここにある ~(中略)~ 過去や未来を思う限り、安心して生きることはできない。道は一つしかない。今を味わうことだ。過去も未来もなく、ただこの一瞬に没頭してできたとき、人間は自分がさえぎるもののない自由の中で生きていることに気づくのだ… ~(中略)~ 雨の日は、雨を聴く。雪の日は、雪を見る。夏には、暑さを。冬には、身の切れるような寒さを味わう。……どんな日も、その日を思う存分味わう。お茶とは、そういう「生き方」なのだ
今、この瞬間を精一杯生きる。いい日も悪い日もなく、毎日の一瞬一瞬を感じ取る
こと。そう思っていれば、他人と比較して落ち込んだりしていることがアホらしく
なる。自分を縛っているのは自分自身。考え方次第で毎日自由に生きられる。それ
は、著者の確かな経験に基づいた心の気づきからくるメッセージで、上っ面だけの
自己啓発本よりも説得力がある。ここまでの精神世界をお茶のお稽古で感じること
ができるなんて、お茶って奥深い。なんとも幸せな読了感でした。
きっとこれから何度も読みたくなる本で、読むたびに心に響くメッセージが違うん
だろうなと思う。バリバリお茶をやっている人はもちろん(お稽古風景は共感しっ
ぱなしでもっと書きたいくらい)、お茶に興味がなくても一度手にとってみてほし
い。表紙だけでは絶対伝わらない。でも一度読むと大事な本になる。そんな本です。
※2018年10月13日公開、映画化されています。先日亡くなられた樹木希林さんが
出演されているとのことで話題に。映画もすでに見たのでおすすめだけど、やっぱ
りそれでも、本を読んでほしいと思います。
(文:森田茉美)
日日是好日「お茶」が教えてくれた15のしあわせ
森下典子(新潮文庫)
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